伊那谷の旧家(1)

伊那谷は昔からの米どころだったから、地主だった旧家が多い。

それらの家は、伝来のどっしりした蔵を備え、周辺を青垣で囲い、小さな王国のような屋敷を構えている。

バイクで散策する途次、そうした屋敷を見かける都度カメラに収めていたら、相当の枚数になった。その一部をここに紹介したい。

典型的なお屋敷。

まず目に付くのは、毎年植木屋を入れて丹念に手入れしてきた見事な植え込みである。邸内の木々の古さで、その家の歴史が知られる。

前図の屋敷は、白壁の塀が目立ったが、この屋敷は垣根の美しさが目を惹く。

次の写真は往事の大地主の屋敷だ。蔵がいくつもあるのは、小作が運んできた年貢米を収納するためである。屋敷地の広さにも驚かされる。

次の写真は、旧家とは言えないかもしれない。蔵の屋根が母屋の屋根と同じ色をしているところを見ると、これは古くからある蔵ではなく、戦後になって建てられたものかもしれない。ともあれ、山裾に位置する落ち着いた感じの屋敷だ。

次のものは、明らかに戦後の建築である。しかし屋根付きの塀が囲っている屋敷地の広さや、家の背後に昔の蔵があるところなどから、かっての旧家だったことが分かる。

下図の屋敷からは、乳牛の鳴き声がして厩肥の臭いがしてきた。酪農を営む農家だろうと推測される。入り口の両側に二棟の建物があって、これが屋敷全体に安定感を与えている。

次の図は、旧家というには当たらず、戦後世代の手になる現代的な住宅である。白壁もないし、蔵もないが、代わりに夥しい植木が家を囲んでいる。

こうして立派なお屋敷を見てきて、ではそれらの屋敷に住みたいかと聞かれれば、うべなうのがためらわれる。だが、次の写真のような家だったら、言下に「いいね。これだね」と答えるだろう。

精々10坪ほどの平屋で、屋根もトタン葺きである。土地建物併せて1000万円以内で手に入れることが出来るのではなかろうか。

でも、目の前には広々とした水田が開け、背後にひとかたまりの木立がある。道路にも直ぐに出られる。こんなところで暮らしたら、寿命も10年は伸びるにちがいない。

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