台地の風物詩
段丘崖を上って、台地上に出るやいなや、まず、目に入ってくるのが仙丈岳で、これほど雄大な山容を示す山岳は少ないのではないか。伊那谷の底面になる天竜川流域からは、残念ながらこの山の全容を見ることが出来ない。だが、段丘に上がれば、仙丈を仰ぎ見ることが出来る。私は台地に出る度に、カメラで仙丈岳を撮らずにはいられない。だから、仙丈岳を撮った写真は何十枚もある。
下図の二枚は、撮影地点もほぼ同じ、角度も同じ、違うのは山の頂に雲があるかないかだけである。しかし、その小さな差異も放ってはおけず、フィルムに記録しておきたくなるのである。
仙丈岳が壮麗を極めるのは、冬の夕日を浴びて真っ白だった山肌が赤く染まるときである。その光景は、何度見ても息をのむほど美しい。私は残照に赤く染まった仙丈岳を繰り返しカメラに収めてきたが、どうしても夕焼けの赤を写真で捕らえることが出来なかった。
上の写真は夕方に撮ったものだから前景の家屋や立木が黒い影になって時刻が暮れ方であることを示している。この手の写真を随分撮ってきたが、残照の赤をハッキリと写し取ることは遂に出来なかった。
これも夕方の写真である。身の回りは、とっぷりと暮れて暗くなり、仙丈岳だけが夕日を受けて冷たく輝いている。このコントラストをとらえるには、多分、レタッチという手法を使わなければならないのだろう。