窓からの眺め
私の家は、天竜川のほとりにある。というより、天竜川の堤防横にあるといった方が分かりやすいかもしれない。だから、窓を開ければ、天竜川が見える。
開花一週間前の桜並木
満開の桜並木
天竜川の桜並木
戦前、伊那市には「土手八丁の桜」という名所があった。私が学んだ中学校の応援歌にも「天竜河畔に咲く桜」という一節がある。その歌詞の通り、天竜川の堤防上にずらっと桜が植えられていたのだ。だが、今ではその一部しか残っていない。
上下二枚並べた写真は、時期をずらして同じ場所を撮影したものだ。上の方は開花一週間前のもので、下の写真は満開の桜並木を撮ったもの。桜は既に老木だから、花の色も褪せてきている。
後方に見える山波は、中央アルプスである。中央アルプスも、この辺は未だ低く、ここから南方にかけて次第に高度を増し、3000メートル近い駒ヶ岳・空木岳になる。向かって左上隅にちらりと見える雪をかぶった山がその空木岳である。
右方の空に見える棒状の雲は飛行雲だ。当地は飛行機の通路になっているため、飛行雲が何時も見られる。
左上隅にちらりと見える空木岳が、朝日に映えるところを望遠レンズで撮影する。
鬱々と歩く
桜並木の先に、市営病院がある。若い頃、長い病気をした私は、この病院に入院していたことがあった。そのころ、安静時間が終わると、病院を抜け出して、この並木の下をよく散歩したものだ。鬱々とした心を抱いて散歩するには、あまり人通りのないこの道の静けさがよかったのだ。たまに通るといえば、河原の砂利を採取する作業員を車台に乗せて走りすぎるオート三輪くらいだった。
散歩しているうちに、同じ病院に同じ病気(結核)で入院している女性の患者と連れになることがあった。そんなときに、オート三輪とすれ違うと、若い作業員が荷台の上から素っ頓狂な声を掛けてきた。
「俺も病気になりてえなあ」
二階の窓から対岸の桜並木を眺めながら、作業員の素っ頓狂な声を思い出すこともある。連れの女性は、恋人でも何でもなかったが、若い男女が二人連れで歩いていれば、未知の若者から冷やかしとも羨望とも取れる声を掛けられる時代だったのだ。