ダムの周辺

上伊那地方には、三つのダムがある。いずれも、南アルプス側にあって、南アルプスと伊那山地に抱きかかえられるような格好になっている。ダムが中央アルプス側になくて、南アルプス側に偏っているのは、南アルプスが前山として伊那山地を擁し、懐が深いからなのだ。

三つのダムのうち、最も規模の大きなものは美和ダムだ。美和ダムは三峰川を堰き止めて作ったダムである。三峰川というのは、天竜川に流れ込む支流だが、ダムが作られる前は川幅も本流より大きく、水も清冽、河原の石も美しく、見た目に魅惑的な川だった。しかし、今は水を発電用と感慨用に奪われて、涸れ川に等しくなり(下図参照)、昔日の面影はない。

三峰川を上流に遡って行くと、桜で知られている高遠があり、この高遠の奥に美和ダムがある。

伊那谷は開発が進み、ひなびた地区が減ってきている。そんな中で、伊那山地と南アルプスに挟まれた秋葉街道一帯が最後に残された「秘境」という感じがする。バイクに乗って訪れるには、格好の場所なのである。

秋葉街道に一歩足を踏み入れると、まず、目を惹くのが美和ダムだ。これは県営で着工された多目的ダムで、長野県はこの成功に味を占めて次々に県営の大型工事を計画するようになったが、このダム工事のように成功したケースは少ない。

上図は青い水をたたえた美和ダム。

秋葉街道を南下すると、似たような規模のもう一つのダムにぶつかる。小渋ダムである。逆に北上すれば、水道用の水を上伊那一円に供給する箕輪ダムがある。これらのダムへは、自動車・バイクを使えば1〜2時間でたどりつくことができる。新緑の季節、紅葉の季節に毎年ダムを訪れる人が多い。

小渋ダム

箕輪ダム

秋葉街道に立つと、天竜川流域のミニチュア版という感じがする。そこには三峰川が流れ、その両側に段丘があって、平地と台地の配列が相互に似ているのである。だが、川の両岸に水田はわずかしかなく、住宅も多くはない。

段丘上にも少数の住宅が並んでいる。掌で天に持ち上げられたような家々である。山と地続きになっている台地には、猿や熊が出没するらしく、バイクを走らせていたら、「熊に注意」という立て看板が出ていた。

             

街道を挟んで、両側だけに家が建ち並ぶような小規模の集落にも、最小限度の店や公共施設が存在する。煙草屋・酒屋・農協支所・郵便局などである。

いずれも普通の住宅をそのまま転用したような小さな店であり、施設だ。これらを1セットずつ揃えた集落を次々に通過して行くと、人間の営みの共通性に思い至り、「人皆同じ」という感を深くする。

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