畑の友人たち
「最低生活」を試みる
再就職の口がなくもなかったけれど、定年になるやいなや、さっさと退職した。 これは、自分にとって可能な最低生活を試みるためだった。
で、妻子を旧宅に残して、一人で畑の中の別宅に移り、「独居自炊」の生活を始めることになった。
一年間、一人で寝起きした後で収支決算してみると、新聞代などの雑費を含めて月3万円で事足りている。その詳細は、機会があれば別のところで報告してみたいと思っている。
ここでは、この間に畑の周辺で見聞した動物たちのことを記しておきたい。私は彼らを友として一年を過ごしたのだ。
雉(キジ)今はその空き地にも家が建てられてしまったが、近くに雑草が丈高く生い茂った売り地があって、そこにオスの雉が棲んでいた。春もたけなわの頃になると、そのオスはメスの雉と連れだって姿を現すようになった。
餌をあさる彼らのコースは決まっている。毎日、午前10時頃になると、空き地の方からやってきて、我が畑で地面をついばみ、反対方向に去って行く。そして午後1時頃に巣に戻るために再び連れだって畑を通過するのだ。
人気のない我が畑は砂浴びの場所としては格好らしく、畑のあちこちにその痕跡が残されていた。
やがて、メスの姿は見えなくなり、オスだけがやってくるようになる
メスはどうしたろうと思っている内に、今度はオスの姿が見えなくなってメスだけが姿を現すようになった、一連隊の雛を引き連れて。
メスは、オスと一緒だったときと同じ時刻、同じコースに姿を現す。
違うところは雛たちがはぐれないように気を使っていることだけだった。この一連隊が畑に出ている私のすぐ横を通り過ぎることもある。
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毎日、彼らの一行を眺めているうちに、最初7羽いた雛が、一羽、二羽と減って行くことに気が付いた。彼らが姿を見せなくなった夏の終わりには、雛の数は4羽に減っていた。鳶か猫にやられたに違いない。
メスの一行が見えなくなると、再びオスが一羽で現れるようになった。上掲の写真はそのオスを撮ったものである。彼らの相互関係はどうなっているのだろう。
鼬(イタチ)
畑の横に幅2メートルほどの用水路があり、鼬はここに棲息しているようだ。
私はその姿を二度見かけただけである。夏のある日、畑に出ていって、作業を始めようとしたら、いきなり、傍らの用水路から奇妙な動物がおどりでて、前方の空き地に逃げていったのだ。
全身茶色で、中型犬ほどの大きさ。顔は小さく寸詰まりで猫に似ている。特徴的なのは襟巻ほどもある大きな尻尾で、そいつが、まるでバネが跳ねるように宙に弧を描いて走って行く。
(あれは何だろう)
家に戻って図鑑で調べてみると、鼬だった。その後、もう一度、同じ場所から飛び出てきた鼬を見かけたが、その後はお目にかかっていない。
家内は天竜川の中州で鼬を見かけたといっていたから、住処を変えたのかもしれない。
蛇
蛇は毎年一度は見かける。
農業をやっている親戚に言わせると、敷地内にいる蛇は「幸運の使者」だそうである。農家ではそう言い伝えて、屋敷うちに棲む蛇に対する嫌悪感を解消しているのだろう。
蛇を見かけるのは冬を控えた晩秋に多い。数年前、旧宅から移植した小米桜の梢で日なたぼっこをしている蛇を見かけたことがある。
小米桜は薮のように茂って大人の背丈ほどになっていた。そこに紐を引っかけたように蛇が絡まっていた。
別に毒蛇でもないようだったから、そのまま放っておいたが、女子供にはあまり見せたくない光景である。
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