バイクで登山(山腹編)

バイクで山に登っていると、様々なトラブルに巻き込まれる。バイクを路肩に止めたら、路盤が崩れバイクを4〜5メートル崖下に転がり落としてしまったことがある。もっと困ったことが起きたのは、春先に伊那山脈の頂上に登り、その帰途、ふと思いついて日陰の林道にバイクを乗り入れたときのことだった。そこまで道は乾いていて問題はなかったのである。が、その林道は鬱蒼としげる木が日射を阻んで、あちこちに未だ雪が残っていた。地面はじくじく溶けた雪で濡れていたが、その下は凍っていて堅く、バイクが横滑りすることはなさそうだった。

ところが、その林道に入り込んで暫くするとエンジンがストップして動かなくなってしまったのだ。バイクを下りて調べてみると、車輪と車輪カバーの間にぎっしり泥が詰まっている。オフロード用のバイクは、車輪とカバーを離してあるからこんなことにはならない。私のバイクはタイヤの太いオンロード用のバイクだったから、雪解け道の泥が詰まったのだ。

棒でつついて詰まった泥を落としているうちに、日が落ちてあたりは暗くなってくる。助けを呼ぼうにも誰もいない。季節はずれのこんな時期に、雪解けの林道に入って行くような馬鹿は私だけなのだ。必死になって泥を落とし、バイクをそろそろ手で押して、乾いた道に出たときには本当にうれしかった。

暖かい季節に山に登り、林道が上図のように乾いているときには何の心配もない。しかし、林道に雪が残り、その雪が溶けかけているときは危険なのだ。平地は春の気温になっているのに、山中は未だ冬というのが自然の法則なのである。

一度、若葉青葉の時期にバイクで山に登ることを覚えると、以後その爽快さを忘れられなくなる。山中で見る若葉の色や、それを照らす日の光は家にいては見られない程すがすがしく、荘厳でさえあるのだ。

ふと仰ぐ雲の形も新鮮だ。

崖崩れの危険があるところには、工事が施されている。

山と山がV字型にぶつかるところには、ほとんどすべて谷川が流れている。だが、ここまで登ってくると、川も見えないし瀬音も聞こえない。この狭い谷間に「クオーン」という鋭い鳴き声を聞いたことがある。両方の山肌に反響するほど大きな鳴き声だった。目をやると、反対側の山の斜面を大きな狐が駆け上がって行くところだった。山の中では、時折、カモシカにぶつかる。が、狐を、それもあんなに大型の狐を見たのは初めてだった。

山の中腹からは、併走する向こうの山脈の中腹が見える。中腹と中腹。少し目を上げると、南アルプスの主峰群が目に入ってくる。

その南アルプスの主峰に雲がかかっている。山の上で見る雲は、帆船が走るように素早く移動して行く。

頂上に近づくと、山々の稜線が視線を引きつけるようになる。稜線、また稜線。

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