金沢峠への道(2)
峠に至る道は、あまり傾斜の急なところはなく、全体としてなだらかになっている。大名が行列を作って移動するのには、あまり道が急傾斜では困るに違いない。道は北側の山肌を削って作られている。そこからは、谷の底面に散在する民家がパノラマのように見える。
峠道を見下ろすような形で、北側の斜面に新築の家がある。下図2枚は、その新築の家を撮ったものだが、山小屋風の外観が共通している。特に下のログハウスは別荘風の作りになっている。この家には、人の気配がなかった。やはり夏の間だけの別荘かもしれない。
道の傍らの小高い場所に墓地があった。丘陵の頂上に、あたかも四辺を見下ろすように墓地がそびえているのだ。人家は下方の、谷底といっていいところにある。人々は生きているうちは、飲料水に恵まれた谷に住み、死んで空高くそびえる墓地に葬られるのである。
前回峠を訪れたときには気にもとめなかったが、峠の間近に「千代田湖」と呼ばれる池があり、その周囲に「ホテル」が建っていた。「千代田湖」も「ホテル」もオーバーな言い方で、千代田湖の方は池が大きくなったものといった感じだし、ホテルの方は一昔前のアパートに似た感じだ。
それにしても、こんな山頂近くに「湖」があるのは不思議なことである。池の半分には薄い氷が張って、陽光にきらきら輝いていた。麓は紅葉の盛りで温かなのに、山頂部はすでに初冬の気配を漂わせているのである。
もう少しで峠の頂部に達するというところで、山向こうの諏訪が見えてきた。彼方には八ヶ岳の連峰が雪をかぶっている。勇気百倍、峠の頂部を目指してバイクのアクセルをかけたが、思わぬ障害があってそこまで行くことができなかった。山頂に雪が降り、それが凍って舗装された路面がブリキを張ったようになっていたのだ。もちろんバイクでは、先へ進めない。バイクを残して、徒歩で最後の坂を上ろうとしたら、つるつる足が滑るのである。その上、底がすり減った運動靴を履いてきたから、足のつま先が寒さでかじかんでくる。
峠の頂上一帯が舗装され、道幅も広くなっている。だが、そのために道路が結氷すると具合が悪くなるのだ。無理をすれば頂上まで行けないことはない。しかし(まあ、今回は諦めるとするか)と引き返した。これまでにいろいろ痛い目に遭ってきているので、私も用心深くなって来たのである。
そこで、20年前の写真を持ち出すことにする。下図は前掲の一枚目の写真とほぼ同じ位置から撮っている。色調が黄色がかっているのは、写真が古くなっているためだ。
今は全線が舗装されているが、以前は下に見るような道だった。カーブする部分には、えぐったようにワダチがついている。
下図が峠の頂部。道はここから下り坂になって諏訪の旧金沢村に達している。遠くの八ヶ岳が冠雪しているところを見れば、前回も今度と同じ季節にやってきたのだった。が、あの時には、まだ雪は降っていなかった。