子供の日 去年の子供の日には、TVで「子供将棋名人戦」を見ていた。
今年は晴天に誘われて、中央アルプスの山麓方面を訪ねることにした。何しろ今日は、気温が30℃近くも上昇して、初夏の気候どころか、真夏の天候になっているのである。すでに花の季節は、過ぎている。今は新緑の季節になり、野山は濃淡さまざまの緑に覆われ、花の季節とは別種の美しさを示しているのだ。特に、ケヤキの大木が芽吹くさまは、壮観といっていいほどに美しいのである。
天竜川西岸の段丘上に出て、中央アルプスの山麓部に近づくと、水田に水が張られている。緑一色の野山の中に、水田が点々と散らばっているところは、空に向って瞳が開いているようだ。5月の伊那谷の美しさは、田植え前の水田の美しさである。
やがて目当てのケヤキが見えてくる。
ケヤキはどれも例外なく巨大で、5月の空を大きく区切っている。それが変に柔らかな浅緑の若葉をつけているのである。下図は西岸の市街地で見かけたケヤキで、端午の節句の幟が風に翻っていた。次の写真は山麓の畑地に立ち並んでいるケヤキ群で、手前に矮化リンゴが一列白い花をつけている。このケヤキ群は多分防風林の役割を果たしているのだろう。
アルプスの山裾は、水の便に恵まれていないので牧草地として利用されているところが多い。牧草はよく手入れされていて、30センチほどに伸びた草が一分の隙もないほどにびっしり生え揃っている。平凡な表現だが、厚さ30センチのマットを一面に敷き詰めたようだ。
牧草地 山麓の緩斜面に住宅が建っている。家は色とりどりの植木に囲まれ、植木はそのまま山裾の自然林につながる。家の周囲の赤みがかった植木は八重桜と紅葉だ。紅葉もこの時期には、鮮明な濃褐色を見せて、花と見まがうほどである。
山麓から少し下った窪地には、木々に埋もれた住宅の屋根が見える。家が木々に囲まれているのは、風を防ぐ目的もあるにちがいない。二つのアルプスに挟まれた伊那谷では、南北方向に風が吹き、段丘上に吹きつける風はとりわけ強いという。前景にみえる赤い花は「しだれ桃」で、低地ではすでに散ってしまったけれど、ここでは今が盛りなのである。
やがて何度か写真の素材にしてきた茅葺きの農家の前にやってきた。道路を隔てた手前の水田に茅葺きの屋根が映っている。
この家の玄関は、昔ながらの潜り戸になっている。板戸の真ん中をくりぬいて小さな障子戸を取りつけ、これを開けて家のなかに入るのである。板戸そのものを取り外すこともできる。すると、家の裏に通じる土間になる。つまり家の中に表と裏をつなぐ直通の土間があるのだ。これを使って馬を表から裏へ引き入れたり、裏の荷を表に運び出したりするのである。
今日は脇の道を回って、この家の裏側を眺めることにした。裏は表からは想像出来ないくらいに広くなっていた。差し掛けのトタン屋根で裏を広く囲い込み、居住部分・作業部分にしてある。
バイクを走らせながら、下方に目をやると、華やかな一角のあるのに気がついた。赤と白の花でいろどられた「花の森」といった感じの一角である。
(あれは何だろう)と下にくだる道を探して、「花の森」の横に出る。
「信州伊那梅苑」
という看板が出ていて、観光バス駐車場の敷地が広く取ってある。高遠の桜見物をした後で、観光バスは伊那梅苑に回るという記事を新聞で読んだことがある。
今度は伊那梅苑を反対側から眺めることにする。上図の奥にこんもり盛り上がっている白い花木はコブシで、その両側のピンクの花木は花桃だろう。その手前にある葉だけの樹列が梅で、直近の緑がドウダンツツジである。
観光バスでごった返していた頃の面影は今はなく、伊那梅苑のまわりはひっそりしている。いいときに来たなと私は思った。