花の咲く頃(2) 今年は、新聞に「さくら便り」の記事が載るようになっても、外出する気にはならなかった。当地の方言でいう「ずくなし」になってしまって、自宅でもっぱら雑書を読んでいたのである。
さくらのシーズンが終わたら、今度は新聞に花桃の写真が載るようになり、これを目にしたら、ようやく気持ちが動き、半年ぶりにバイクで遠出をする気になった。下に掲げたのが、私をその気にさせた写真で、当地(伊那市)に近い駒ヶ根市で撮影された写真である。段丘の斜面に、コブシ・花桃・レンギョウなどが咲き乱れて、絢爛たる光景を現出している。
信濃毎日新聞掲載 8年ほど前になるけれど、中央アルプスの山麓地帯に出かけて花桃の写真を撮ってきたことがある。その時の記録は、「畑に家を建てるまで」と題するHPに、「花の咲く頃」という見出しを付けて載せたのだが、なにしろ大分昔のことなので、添付した写真の出来が悪く、今ではちょっと見るに堪えないという感じになっている。
あの頃には、フィルムカメラで写真を撮ってきて、店に頼んで現像して貰い、出来上がった手札型の写真をスキャナーにかけてパソコンに取り込むという面倒な操作をしていた。当時はスキャナーの性能も悪く、画像作成ソフトにもいいものがなかったから、不出来な内容になってしまったのだ。
それから8年たつ。機材も進歩してきたから、もう少しましな花桃の写真を載せることが出来るかもしれない。「花の咲く頃」パート2を作ってみようと考えたのも、久しぶりにバイクを走らせた理由だった。
駒ヶ根市に入るために火山峠に近づくと、至る所に花桃と小米桜・コブシによる赤と白のコントラストが見られる。下図の写真は、幹線道路沿いで撮ったもので、その気になればこうした写真をいくれでも撮ることが出来るのである。
次の写真も道路に止めたバイクにまたがったままで撮ったけれども、花桃の木自体は道から少し引っ込んだところに生えていた。左手は深い谷で、そこにせり出すような形でこんもりした花桃と藪状になった小米桜が咲いている。民家はこの奥にあった。いかにも暮らし良さそうな家だった。
峠を越えると、おなじみの茅葺きの家が見えてくる。下図の家は、これまで何度も写真に撮り、 HPにも繰り返し掲載してきている。左側のものは、7年ほど前、最初にHPに載せた写真である。茅葺きの屋根が古びて凹凸が出来ている点に注意を惹かれ、そこにポイントを置いて撮った写真である。
右側は今度新たに撮ったもので、屋根は修復されて凹凸はなくなっている。この家にも花桃がある。近くまで入り込んで調べるのが憚られたので、離れたところから観察するしかなかったが、この花桃は白い花と赤い花が混じっているように見える。花桃にはそういう品種もあるのだそうだ。しかし、これは、コブシと花桃の木が重なっているため、こう見えるのかもしれない。
この地区には、繰り返し写真にしてきた茅葺きの家がもう一軒ある。この家にも花桃の木があった。下図の写真は、前回に撮影したもので、花数の少ないところが逆に風雅な印象を与えていた。
ところが、この家は茅葺きの屋根を取り壊して、金属製の屋根に変えてしまっている。その屋根が、春の陽光を浴びて燦然と輝いているのである。花桃の古木も、今年は花を付けていない。確か、石垣の手前は池になっていたはずだが、それも埋め立てられたらしく平坦になっている。有為転変、これも人の世のならいであろうか。
失望を感じながら、陣馬形山目指して坂道を上っていったら、長い私道を備えた民家が目に入って来た。下の写真ではハッキリしないと思うけれども、この家は山林をバックにして行き止まりになっており、写真左端が私道の始点になっている。この家には、これを通って行かなくてはならない。私道の両側には芝桜などが植えられ、文字通り「花道」になっている。
こんな詩的な家があるかと思えば、無人の廃屋が点々と散在するのも山村風景である。下の写真がそれで、崩れかけた建物本体に面して、小ぶりの蔵がある。これは多分、自家製の味噌・醤油などを保存しておく「味噌蔵」だったに違いない。
陣馬形山の麓までたどり着いたところで、ターンして帰途につく。駒ヶ根市と伊那市の境目のあたり、旧東伊那村へんまでくると、菜種畑の黄色が目につくようになる。以前にも、菜種畑を前景に置いて中央アルプスを写真にしたことがあるが、黄色の畑を前にすると同じ趣向の写真を何度でも撮らずにはいられない。
自宅にたどり着けば、ここも赤と白の花が咲いている。「花の咲く頃(パート1)」には、門の方向から玄関を望む写真が載っている。左側の写真がそれで、右が今回撮ったものだ。この二つを較べてみると機材の進歩してきていることが歴然とする。
最後の写真は、上図とは逆に、玄関から門の方向を撮したもので、これを見ると敷地をいい加減に使っていることが判明する。矢印の部分が裸になっている。これを花壇にでもして手を加えたら、少しは見られる前庭になると思うのだが。