ピアノ・リサイタル
(略)・・・・・このすばらしい雰囲気の中で、演奏は始まりました。
その素晴らしいこと、私の身も心も音楽に引き込まれてしまいました。一つ一つに神経が行き届いた繊細な音色。私が初めて聴く「ナマの音楽」です。素晴らしい演奏が終わって、はっと我に返った時に、私は涙を浮かべていました。暗い夜道をバスに揺られて帰る私の耳に、何時までもあのピュアな美しい音色が響いていました。
ラジオの音楽
それは、ある木曜日の夕方だった。人物のスケッチを直していると、どこからともなくバイオリン協奏曲の音色が流れてきた。私はラジオのスイッチを入れて、その音楽を流している番組を探し、それを聞きながらペンを動かした。
最後のペンを入れ終わったとき、はっと気がついた。あたりはもう夕闇に包まれ、自分が仕上げたスケッチも見えなくなっていた。私は、それから音楽が終わるまで魅入られたように夕闇のなかでその協奏曲を聞いていた。
それ以来私は夕方が好きになった。そして、夕闇がやってくるのを待つようになった。