民主党という雑居ビル 私が民主党という政党に疑問を持ち始めたのは、同党所属の西村真悟議員がテレビで暴言を繰り返すのを目にしたからだった。「たけしのTVタックル」というのを時々見ていた頃、西村議員はこの番組の常連出席者で、正気の沙汰とは思えない暴言を連発していたのである。このHPに前に書いたことで言えば、彼は韓国人が竹島に上陸したときに、「日本人は皆、朝鮮人が嫌いなんだ」と断定しておいて、「韓国の船が竹島にやってきたら、そんなものは自衛艦で撃沈してしまえ」と言い放っていた。
「TVタックル」がいかに視聴率ねらいの軽い番組だったとしても、かりそめにもこれは政治討論番組なのだ。そして西村議員は民主党の看板を背負って、番組に出演しているのである。公党としての立場上、民主党は西村議員の暴走に注意を促してしかるべきだったのである。ところが、党幹部はそんな気配をいっこうに見せなかった。
民主党が西村議員の発言を放置していたのは、寄り合い所帯のこの党が自民党よりも右寄りのタカ派議員を多数抱え込んでいるからなのだ。民主党には、旧社会党出身の左派議員がいるかと思えば、市民運動出身のリベラル系議員もおり、かと思えば政界の裏も表も知り抜いた「政治プロ」式ベテラン議員もいる。民主党は、何でもかんでも抱え込んでいる点で雑居ビルのような政党なのである。
この雑居ビルに住み込んだ住人のうちで、ひときわ威勢のいいのが右派グループであり、西村議員はこのメンバーの一人だったのだ。右派議員の多くは、小泉チルドレンとその幼稚さを競いあっている民主党チルドレンの面々であって、彼らは口をそろえて憲法改正だの、自衛隊の軍昇格だの、中国脅威論を合唱する。
右翼的思考の特徴は、被害妄想と連動する復讐心にもとづいて、何かといえば直ぐ前後見境なしの行動に走ることである。わが国は、軍部や右翼のこういう短絡思考と拙速行動に引きずり回された結果として敗戦の憂き目を見たのだ。民主党が、現在、窮地に追い込まれているのも、昔の軍部を思わせるような右派グループの独走によってなのだ。
謝罪する永田議員 予算委員会で「送金メール」を持ち出した永田寿康議員は民主党チルドレンの一員であり、彼をバックアップした野田国対委員長と前原代表は、そろって中国脅威論を口にする右派グループのリーダー格だった。送金メールを武器に自民党を責め立てる作戦を事前に知っていたのは、民主党内にこの三人しかいなかった。
永田議員は、情報を提供してくれた元フリーライターに全幅の信頼を置いていたという。この元ライターについて、永田議員は当初「私に惚れ込んでいる」人物だと紹介し、彼は自分に成果をあげさせたくて極秘情報を提供してくれたのだと説明している。
永田議員は、自分を崇拝しているという理由で、怪しげなメールを持ち込んだ相手を全面的に信頼してしまった。つまり彼の錯誤の原因は、その自惚れにあったのである。
そして、この永田議員を全面的に信頼したのが野田国対委員長であり、その野田国対委員長を全面的に信頼したのが前原代表だった。野田国対委員長が永田議員を信頼したのは、相手が自分に忠実な配下だと思ったからであり、前原代表が野田国対委員長を信頼したのも同じような理由からだった。この直列でつながる三人の思考の何とよく似通っていることだろう。軽信に加うるに、自惚れとまがう自信過剰。しかも三人とも根拠薄弱な情報をもとに、事前の宣伝だけは抜かりなく派手にやってのける。これも軍部や神懸かった右翼の得意とするところだったのである。
三人は送金メールが偽物だと分かってからも、その場しのぎの誤魔化しをつづけ傷口を大きくしてしまった。これも又、太平洋戦争中の軍部のやり口によく似ている。軍部は、戦況がどんどん不利になっていっても「一発逆転の秘策あり」と宣伝して、全国を焦土にしてしまったのだ。
前原−野田ラインが窮地に立っても、他のグループは冷淡に傍観しているだけだった。いかに雑居ビルの住人同士とはいえ、これでは少し冷たすぎるではないか。だが、若手で固めた前原執行部が他のグループに何の相談をすることもなく、先走って党の方針を取り決め独走を重ねてきたとすれば、同じ党の属していても他の議員には援助の手をのばしようがないのだ。
ライブドアも若手が指導部を固め、ルール無視の暴走を重ねた。
右傾化の進む現代日本では、あちこちに戦前の青年将校のようなグループが出現し、戦後民主主義の成果を切り崩しつつある。これは戦中派の目からすると、あまり気持ちのいい光景ではないのである。