女子高生の至高体験
男子高校から女子高に転勤してきた教員は、たいていカルチャーショックを受ける。一昔前の女子高校ときたら、他の高校とは全然違っていたのである。授業中生徒たちは、気味が悪いくらい静かだし、テスト中にカンニングをするような生徒は絶無だったのだ。
だから、教員は、生徒たちの頭脳や品性について買いかぶってしまう。が、そのうちに、だんだんと彼女らの素顔が明らかになってくる。
初めて女子高に赴任してきた数学教師は、授業を受ける生徒が、揃ってさかしげにうなずいているので、すっかり内容を理解してくれているものと思いこんでしまう。ところが、テストをやってみて、愕然とするのだ。全滅に近い出来だから。
彼女らがカンニングをせず、他人のものを盗まないのも、道徳心が強いというより、お互いに監視しあい、牽制し合っているからなのだ。級友を見守る彼女らの目は、実に鋭いのである。
だが、私は15年の長きにわたって、地元の女子高校に勤め続けた。
同一校にこんなに長く腰を据えたのは、女生徒たちがパスカル説くところの「繊細な精神」を持っているからだった。「倫理社会」の授業をするとき、さまざまなテーマについて感想や意見を書かせる。すると、男生徒より女生徒の方がバランスの取れたいい文章を書いてくるのである。そのレポートは、授業中に短い時間を使って、即席で書かせるのだから、誤魔化しがきかない。生得の感性やら内面の深さが書くものに否応なく出てしまうのだ。
男生徒の文章は、生硬で粗雑なものが多いが、女生徒の書いてくるものは、柔らかな感性に支えられていて、しかも知性の輝きを示すものが多い。
ここに載せたのは、「倫理社会」の時間に、ある年の高二の生徒に提出させたものばかりだ。プライバシーその他を考えて、こちらで手を加えた部分もある。だが、補正したのはごく僅かな部分でしかない。