5月5日

朝起きたら快晴で、外には初夏のような日差しが溢れていた。前日には、(明日晴れていたら駒ヶ根市東伊那の菜種畑を見に行こう)と思っていたのに、新聞を拡げてテレビ欄を眺めているうちにその気がなくなった。教育テレビで囲碁対局番組に続いて、小学生将棋名人戦が放映されることを知ったからだ。

それで、腰を落ち着けて新聞を読む。「かたえくぼ」欄には、秀逸な投書が載っていた。
小泉首相は、やたらに大見得を切ったり、大言壮語したりするが、やっていることはお粗末だ。ハッタリの好きな右翼学生という感じで、日本を危険な方向に引っ張っていこうとしている。その小泉首相を口先だけで、中身のない鯉のぼりにたとえたところが面白い。小泉人気という風が吹いているうちは颯爽と空を泳いでいるが、風がやめば、だらしなくしっぽを下げてしまうだろう。

朝日新聞(5月5日付け)

昼食後、小学生将棋名人戦を見る。スタジオには、出場する小学生の家族も応援に駆けつけている。優勝した小学生はヌーボー型の子で、アナウンサーの問いに答えて、ヌーボー式の受け答えをした。すると、画面の端に映っていた女性が(あの子ったら、また、間の抜けたことを言って)と、笑い出したいのを我慢するかのように、ぱっと上体を前に折り曲げた。

姉さんかな、と思っていたら、彼女は優勝した子の母親だった。
準優勝した子は悪戯好きで素っ頓狂な小学生らしかったが、決勝戦で負けたのが口惜しいらしく、べそをかいていた。それをその子の母親が首筋をなでて慰めてやっている。こうした光景が見られるから、子供名人戦は見逃せないのだ。

5月6日

今日もいい天気で、こうなれば昨日の計画を実行しないわけには行かない。
年を取るとせっかちになるといわれているが、必ずしもそうとは限らない。思い立ってもすぐ実行するエネルギーが不足しているから、行動に移るまでに時間がかかるのだ。水槽に水がいっぱいになるのに時間がかかるように、年寄りのエネルギーは臨界点に達するまでに時間がかかるのである。

目指す駒ヶ根市東伊那に行くには、峠を一つ越えなければならない。峠の手前の台地を走っていると、水の張られた田んぼを前景にコイノボリが翻っているのが見えた。いかにも5月らしいさわやかな光景である。バイクを止めて、写真を撮る。

峠を越えて東伊那に入る。新聞の伝えるところでは、この地区では休耕田に菜種を植える運動を推進しているということだったが、成る程、ここかしこに黄色の花を咲かせた菜種畑が見える。道路脇にバイクを止めて、あたりを遠望する。右手に尖塔を備えた洋館が見える。過疎地には珍しいこの洋館をこれまでに何度も写真にしてきている。洋館から200メートルほど離れたところに、植え込みをめぐらせた風雅な民家があるのに気がついた。

洋館と同じくらいの規模の屋敷だが、こちらは和風である。屋敷の下に道路があるので、間近まで行って観察する。家は道路より高みにあるから、写真を撮ろうとすると見上げる格好になる。ツツジが美しく咲いている。

位置を変えて、撮影を続ける。ツツジの陰に古びた門が見える。この屋敷を訪れるものは、桜並木に囲われたスロープ(私道)を登り、この門を抜けて玄関に入るのである。

屋敷の背後に回る。遠景に中央アルプスが見える。背後の農地は道路よりも一段高くなっているため、農地と屋敷とは地続きになっている。

     

昔は静かな過疎地にあるこうしたお屋敷を眺めて、ちょっと羨ましく思ったものだ。しかし、ADSLでインターネットを楽しむようになってからは、(ここだとADSLを引けないだろうな) などと考えるようになっている。菜種畑を撮影するいい場所はないだろうかと、バイクを更に先へ進める。黄色の畑の向こうに中央アルプスの白い山頂がそびえるところを撮ろうと目論んでいるのである。だが、方々バイクを走らせたけれども、ようやく下図のような写真を撮ることが出来ただけだった。

失望しながら帰途についた。峠を越えると伊那市になる。伊那市に入って暫くしたら、道路脇に今にも崩れそうな廃屋が目についた。その入り口にボタンの株があって、見事な花を咲かせている。

 右下隅にボタン

敷地の中に入り込んでみると、ボタンは二株あり、紅白が対になっている。廃屋の回りに菜園があるところを見れば、この家の持ち主は家を新築して別のところに移ってからも、野菜を作りにここへ通って来ているのである。そして、ついでに、このボタンの手入れもして来ているのである。

家を出るまでは億劫だが、思い切ってバイクで遠出をするときっとよかったな、と思う。今日も満ち足りた気持ちで家に戻ってきたのだった。

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